「シン・ニホン」を読んで | 今、この本が出版された理由

「シン・ニホン」をやっと読んだ。
待ち遠しくて予約注文までして待ってい中々腰を据えて読む時間がなく、先週末にまとめて時間を取って一気読みした。
読みながらパッと思ったことが2つあって、ジレンマとして抱えた。

1. 日本の全国民が読むべき本であること
2. 同時に、この株式会社日本の戦略概要書を実行する人の顔が全く見えないこと

既に読んだ方はこの2つはジレンマでも何もないことが分かると思うが、この疑問を持ち、納得をするというプロセスが何よりこの本の本質だと感じたので、その過程と思ったことを書き連ねてみることにした。

 

■ 日本の全国民が読むべき本であること

まず本書を読んでいない方は、
・なぜ日本は成長できなかったのか
・勝機はないのか
・どうやったら変わることができるのか
きっと分かった気になってる人は多いと思う。自分もそうだった。でも読んでから勉強不足を痛感した。
深く根本から理解することをオススメしたい。
400ページ程あるが論理的で明快な文章なのでスラスラ読める。
読むのが億劫な人は、3年前の本書の元となった資料があるのでそちらを読んでみるだけでも良いと思う。

https://www.mof.go.jp/pri/research/conference/fy2017/inv2017_04_02.pdf

■ 今このタイミングで、なぜ出版したのか。

本題は2である。この株式会社日本の戦略概要書とも言える本書を元に仕組みの改革を実行する人の顔が全く見えなかったわけである。
「それで、これ誰がやるの?」という話だ。
産官学で多くのロールを持っている安宅さんが、永田町・霞が関の人たち、大企業の人たち・教育機関の人たちとの議論をしていないわけがない。これほどのファクトを元にした分析からなる提案は意思決定者に対して提示すべき資料である。というより提示済みだ。それなのに、本というメディアを通して国民全員に対して問うてきたのである。そこがすごく腑に落ちなかった。腑に落ちないという感覚は恐らく正しくて、それがこの本に込められた意味なんだろうと読みながら感じていった。

まずこの国の中枢は既存のアプローチでは「変わらない」という事態。ここでいう国の中枢は政治機関・公的機関だけに関わらず、大企業も含む。お決まりの話なので驚きはしないし、もはや「変わらない」というのは恥ずかしながら日本の代名詞になりつつある気さえする。だが「変わってこなかった国だよ」と言うのは他のメディアでも散々発信されてきたことだ。今に始まったことではない。逆に「変わらない、変わらない」と永遠に議論されているうちは平和だとも思う。

だがこの本が他メディアと違う点は「そろそろ間に合わないぞ」と時間軸から見て警鐘を鳴らしている点だ。

まず日本のGDPは過去20年間、成長していない。
普段ベンチャーという文脈にいるのでベンチャーの生態系は確かに成長していると感じるが、それでも国のGDPは何ら動いていないわけである。

そして2016年国としてのP/L (※ 一般会計+社会保障給付費の概算)は、

170兆円ほどの全体予算に対して、
社会保障給費:118兆円(※地方交付金:15兆円含む)
・残債払:23兆円
・国防費:5兆円
・真水:21兆円

真水として使える実質的な国家予算は21兆円程だそうだ。
膨らむ社会保障費を国家予算から補填している現状で、地方交付金も実質は補填だろうとのこと。

そして、財務省の予測では2025年には社会保障費用が150兆円を超えるだろうとのことで、真水の21兆円を充てがっても足りなくなる。
2025年までにこのままGDPが成長しなかったとすると、国のキャパシティを超えてしまう。

大げさかもしれないが、タイムリミットは残り5年
確かに会社がそんなに簡単に潰れることがないのと同様に、国も簡単にクラッシュすることはない。だが、インフレ覚悟で国債を発行し続けることになると、今起こっているコロナショックでは済まされないような経済への打撃は起こりえる事態だということは想定しておいたほうが良い。

そんな焦りを感じたから安宅さんは憤りとともに、本という形で伝えることにしたんだなと。

本というメディアを選択したのは、今まで行ってきた講演や資料では情報の入り方が弱いと判断したからだろう。SNSに慣れてしまった僕らは情報の受け取り方が極めて受動的になった。twitterもインスタもスワイプの連続だし、動画という媒体も基本流し見なのでインプットするにしては効率が悪い。前のめりになって能動的に情報を深く伝えるという点において、やはり本は優秀だ。

 

様々な背景を理解したうえで、やっと腹落ちした。冒頭で述べたジレンマは、ジレンマではなく因果関係。
『この株式会社日本の戦略概要書を実行する人の顔が全く見えない。だから、日本の全国民がこの本を読んで動け』というメッセージ。
 

政治の世界も選挙という制度上、自分に投票をしてくれる人を大事にする。当たり前の力学だ。民意が変われば、政治も変わらざるを得ないだろうというアプローチとして、選んだ「シン・ニホン」の出版。残された5年という中で民意が変わり、システムが変わるという持久戦に追い込まれてしまったという風に自分は受け取った。

■ 賽は投げられた

残念ながら日本社会には非合理的な力学がたくさん働いている。20年間成長できなかった国だからこの事自体は不思議ではない。だけどそろそろ飽きた。区切りをつけて、膿出しをして進まなければならない。

安宅さんが提案する解決策は、何も国家予算の50%の資金使途を変えろと言っているわけではなく、たった3%の予算を未来へ投資として財源確保してみては?(なぜできないのか)というものである。


とは言え僕らは国を待つのではなく、自分でコントロールが効く身の回りのことからアプローチしていくべきだ。

それぞれの世代がやるべきことに取り組む必要があるが、僕らは特に若い世代として、持つべき武器を持たずに社会に出ているということを自覚したすることから始めたほうが良い。


普遍性と時代性の2側面から武器を考えたほうが良いが、AI時代と言う文脈に則るならば時代性は完敗だし、普遍性も怪しい。そもそも社会人になってから「論理的に考えて判断する・アウトプットする」術を学ぶなんてのは遅すぎるわけである。遅いならまだしも身につける過程を踏んでいない人がほとんどだ。


「イシューからはじめよ」は自分も好きな本の一つだが、あれほどのベストセラーでも25万部しか発行されていない。勿論、ロジカルシンキングの類の本は、この本一冊ではないので、25万部という数字は極端で部分的である。だが仮に200万人に届いていたとしても、生産年齢人口の10%にも満たないし、読んでから実践できるようになるのには大きな壁があると考えるとさらに雲行きは怪しい。

 

その上に乗っかる時代性(専門性)に関しては、世界的に見たら戦える土俵にないのが現状だ。この現実を見据えた上で、僕らはもっともっと勉強して武器を持たなければならない。まだ間に合う。

そして、社会人としてやるべきことは、経済活動を通して成長と希望を示すことだ。
2020年というのはすごく不気味な雰囲気が漂う年だと感じている。時代の変わり目。
最近、不況と混乱の時期だからか戦う相手を間違えているのでは?と頻繁に感じることがある。
あまり深くは言及しないが、SNSでの論争?を見ると悲しいなと思うばかりであるしどうでも良いことに振り回されない力というのは大事だなと思う。

今、変われないと終わるだろうなというタイミング。この激動の時代に生まれ、26歳というちょうどよい年齢でこの5年間を迎えることは運命だとも思うし、正直楽しみだ。
・向き合うべきものを誤らず、
・古き悪しき習慣には明確に”No”と言う勇気を持ち、
・掲げた理想に正対して妥協せず
戦っていきたい。

賽は投げられた。